東京、2019年10月10〜11日
2019年10月、DFGは日本学術会議第一部(人文・社会科学)と共に、「翻訳における文学—世界歴史・世界文化・世界社会—トランスカルチャーにおける日本とドイツ、世界の比較」と題する日独合同シンポジウムを開催しました。このシンポジウムでは、2017年11月に開催された国際シンポジウム「The Impact of the Humanities and Social Sciences. Discussing Germany and Japan」で話題となったテーマが掘り下げられ、日独両国の人文・社会科学の研究者による活発なディスカッションが行われました。
人文・社会科学は社会に利益をもたらすのか、それとも人文社会科学が社会に必要とされる理由が他にあるのか。シンポジウムの学術政策の部では、この2つをはじめとする問いが取り上げられました。ラウンドテーブルに先立ち、DFGのペーター・シュトローシュナイダー会長(当時、 Prof. Dr. Peter Strohschneider)が人文・社会科学と社会との関係をテーマとした基調講演を行いました。シュトローシュナイダー会長は、「歴史解釈学系の学問分野を制度上どう扱うかは、主として、それらが活動する体系の枠組み条件を正確に計算できるかどうかにかかっています」と述べ、「そうした学問分野の研究が成り立つという現実的なコンテクスト」という点を強調し、社会は歴史解釈学系の学問分野を実際には認識していないと続けました。「社会に見えているのは、体系化を伴わない『人文科学』という一つの分野でしかありません。社会や政策にとって、学問内での線引きは些細なことに過ぎないのです」。
基調講演に続いて、DFGのユリカ・グリーム副会長(Prof. Dr. Julika Griem)、ライプツィヒ大学のモニカ・ヴォールラプ=ザール教授(Prof. Dr. Monika Wohlrab-Sahr)、甲南大学の井野瀬久美惠教授(元日本学術会議副会長)、東京大学の吉見俊哉教授が、社会における大学の立場をテーマにラウンドテーブルを行い、聴衆を交えた活発なディスカッションが繰り広げられました。それにより、ドイツも日本も大学における教育・研究の意義が有用性にばかり置かれる傾向にあることが明らかになりました。発言には「インパクト」や「実用性」「移転」「雇用創出」といったキーワードが登場し、参加者は口々にフンボルト派が掲げる大学自治の理想と対極をなすものだと指摘しました。両国とも大学の存在意義がますます問われているという類似点もあって、社会における大学の立場を定義する「第三の方法」に焦点が当てられ、両国に共通する糸口が模索されました。
このディスカッションで明らかになった両国の共通点を受けて、DFGと日本学術会議第一部は、今後も今回のシンポジウムのような連携を継続するとして「Outcome Declaration」に調印しました。
シンポジウムの専門家の部では、次の3つのパネル・ディスカッションが行われました。
両国の研究発表とディスカッションでは、次の3つの問いにさまざまな側面から焦点が当てられました。
今回の2日間にわたるシンポジウムは、専門家の研究発表によってだけではなく、聴衆の意見も交えて幅広くトランスカルチュアリティについて考察する機会となりました。シンポジウムの初日の夜には、トリア大学のヘンリーケ・シュタール教授とアンドレアス・レーゲルスベルガー教授(Prof. Dr. Andreas Regelsberger)の企画により、詩人の伊藤比呂美氏と管啓次郎氏を迎えて朗読会が催されました。両氏は、自作が翻訳されることは、創作においても大きな意味があると述べました。また、伊藤氏は当日急きょ欠席となった詩人・高橋睦郎氏の作品を紹介しました。朗読会を共催したドイツ大使館の好意により、クラウス・フィーツェ首席公使(Dr. Klaus Vietze)の公邸で交流会が催され、学問分野や文化の境界について意見が交わされました。